創設者 林壽彦先生のメッセージ (第5回)

『西独の青少年教育』

このページでは『西独の青少年教育』をご紹介いたします。
※1970年、中国新聞に3回に分けて連載されたものです。

 

西独の青少年教育

平等な立場を基礎に 誕生の翌日からしつけ

 青少年教育にたずさわる私にとってもっとも困ることは、教科書らしいものがないということだ。といって学校のように、いちいち教科書にしたがって進めるとしたら、これまた味気ないものとなり、若者たちも動かなくなってしまうだろう。私は教科書にかわるものを求めて毎年ドイツや、ヨーロッパ各地をたずねて、青少年の活動や施設はもちろん、いろいろな指導者たちとも友になり、また、彼らのやり方について学んできた。

何度行ってもわからない。いやますますわからなくなった。ひとついえることは、青少年育成について国はもちろん、社会も家庭もすべてが協力し、総合的に取り組んでいるということだった。

はじめにドイツのごく一般的な家庭でみられる風景の二、三をあげてみよう。

ドイツでは、子供に対する家庭教育や、「しつけ」は、子どものうまれたその翌日からさっそく始められる。そして、生後一週間くらいからは、もう自分の部屋や、ベッドが与えられ、ひとりで寝ることを教えられる。

両親は、ベタベタと必要以上に子供に愛情をふりまこうともしないし、また、必要以上にたたいたり、しかったり、ヒステリックにはならない。それでいて、この時代からしてよいことや、わるいこと、態度や、マナーをちゃんと教えている。

 子供がたとえば、食事中にガサガサと動きだす。そのつぎにはテーブルの上に手がのび、ジャムのビンなどに指をつっこんだりしていたずらを始める。そこで、母親はいちおう形式的に注意を与える。ところが子供はいっこうにやめようとしない。そこまでくると母親は、もうゴタゴタ言わず子供の部屋のほうをゆびさし、ただ一言「部屋にかえりなさい」ときびしく命令する。子供は初めてハッと気がついていたずらをやめる。しかし母親は部屋にかえる命令を取り消そうとはしない。子供は泣きじゃくりながら自分の部屋にヨチヨチとひとりでかえっていく。

こんなことを毎日の生活の中で繰り返していきながら、家庭でのルールや態度、しつけを身につけていくのである。

外国の家庭ではよく体罰を加えるときくが、少なくともドイツでは、子供をたたいたりはしない。それよりも、もっと毎日の生活的なつみかさねの中から子供をしつけ、教育している。それも一歳半くらいまでに。

こうして少年期、青年期への基礎と、民主主義のルールを学んでいくのである。

ある青年の家庭でのことを述べてみよう。この青年の父親は地方検事をしている。青年は十七歳、実に質素な家庭である。この青年は家族とよくディスカッションをする。彼らの議論を聞いていると、まるで友だち同士のようだ。しかし、こんなときでも青年は幼いときから身につけてきたルールやマナーをちゃんと守っている。